
「求人を出しても必要な人数が集まらない」「少ない人員で日々の業務を回すのが限界に近い」と悩む企業は少なくありません。人手不足への対応は、採用数を増やすだけでは限界があります。
中小企業庁は、少子高齢化などを背景に構造的な人手不足が生じていると指摘しています。対応策の一つが、デジタル投資や自動化による生産性の向上です。参考:中小企業庁「2025年版小規模企業白書」
DXを活用すれば、定型業務の削減、情報共有、属人化の解消、データに基づく業務改善を進められます。ただし、ツールを入れるだけでは成果につながりません。
本記事では、DXでできることと限界、対象業務の選び方、代表的な施策を解説します。さらに、導入手順、業界別の着手例、失敗防止策、KPIも紹介します。
人手不足はDXでどこまで解消できるのか
「DXを進めれば、採用できなくても問題ないのか」と疑問を感じる方もいるでしょう。DXは人手不足を軽減できますが、すべての原因を取り除けるわけではありません。
最初に押さえたいのは、以下の4点です。
- DXは、必要な業務量を減らす取組である
- 自動化・標準化・可視化で、少ない人員でも回しやすくなる
- 採用難や離職など、DXだけでは解決できない課題もある
- 採用・定着・業務改善を組み合わせる必要がある
ここからは、DXによる人手不足対策の対象と限界を整理します。
DXは人を増やすのではなく必要な業務量を減らす
DXで目指すのは、同じ業務をより少ない負担で処理できる体制です。人数そのものを増やす施策ではありません。
例えば、注文情報を紙から基幹システムへ転記しているとします。オンライン受付とシステム連携を導入すれば、転記作業そのものを減らせます。担当者は例外処理や顧客対応など、人の判断が必要な仕事に集中できます。
人手不足を「人がいない」という問題だけでなく、「現在の業務量に対して必要な工数が大きすぎる」と捉え直すことが出発点です。
業務の自動化・標準化・可視化で少ない人員で回しやすくなる
人手不足の軽減には、自動化だけでなく、標準化と可視化も重要です。
| 取組 | 役割 | 具体例 |
|---|---|---|
| 自動化 | 人が行う定型作業を減らす | データ転記、通知、定型レポート作成 |
| 標準化 | 担当者による手順のばらつきを減らす | 業務フロー、チェックリスト、マニュアル |
| 可視化 | 進捗や負荷を共有して停滞を見つける | ダッシュボード、タスク管理、在庫・稼働監視 |
これらを組み合わせると、特定のベテランが不在でも仕事を進めやすくなります。業務の偏りも見つけやすくなり、応援や再配分を早めに判断できます。
採用難、離職、待遇、組織風土はDXだけでは解決できない
DXは業務負担を減らせますが、人手不足のすべての原因に効くわけではありません。
例えば、賃金や評価制度、上司との関係、キャリアへの不安が離職の主因であれば、ツールの導入だけでは解決できません。長時間労働の原因が過大な受注や人員配置にある場合も、経営上の判断が必要です。
その一方で、無駄な転記や検索、重複確認を減らすことは、働きやすさの改善につながります。DXは人事施策の代替ではなく、人材が定着しやすい業務環境を作る手段として位置付けましょう。
人手不足対策は採用・定着・業務改善を組み合わせる
人手不足対策は、一つの施策に絞らないことが大切です。以下の3つを並行して進めます。
- 必要な役割に絞った採用を行う
- 待遇、育成、キャリア、業務負担を見直して定着を促す
- 廃止・統合・標準化・自動化で必要な業務量を減らす
採用できたらDXを止めるのではなく、今後も労働供給が制約される前提で業務を設計し直す必要があります。
人手不足対策におけるDXとは
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、紙を電子化したり、ツールを入れたりすることだけを指しません。経済産業省はDXを、データとデジタル技術を活用し、製品・サービスやビジネスモデル、業務、組織、プロセス、企業文化まで変革する取組と定義しています。参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」
人手不足対策に当てはめると、下表のように整理できます。
| 段階 | 取組例 | 人手不足対策としての意味 |
|---|---|---|
| デジタル化 | 紙の申請書をWebフォームにする | 印刷、持ち運び、転記の手間を減らす |
| 業務プロセス改革 | 申請から承認・記録まで連携する | 待ち時間と重複入力を減らす |
| DX | データを使って審査・配置・サービスを見直す | 必要な業務量と役割分担そのものを変える |
デジタル化はDXへの重要な入り口です。しかし、従来の手順をそのまま画面上に移しただけでは、十分な効果が出ないことがあります。「その作業は必要か」「まとめられないか」「自動化できないか」まで見直してこそ、人手不足対策につながります。
人手不足の軽減に向いている業務の見極め方
「DXが必要なことはわかったが、どの業務から手を付けるべきかわからない」という悩みはよく起こります。最初の対象は、目立つ業務ではなく、効果を測りやすい業務から選びます。
判断基準は以下の4つです。
- 発生頻度と合計工数が大きい
- 手順と判断ルールを説明できる
- 転記、待ち時間、手戻り、ミスが多い
- 必要な情報をデータ化できる
以下で、それぞれの見方を解説します。
発生頻度と合計工数が大きい業務を優先する
最初に、毎日・毎週のように繰り返し発生する業務を洗い出します。1回の作業時間が短くても、回数と対象者が多ければ、年間の負担は大きくなります。
「1回の作業時間 × 発生回数 × 担当者数」で概算すると、感覚では見えなかった高負荷の業務が見つかります。ただし、この式は優先順位を比較するための目安です。実際の導入判断では、必要性やリスクも確認します。
手順と判断ルールを説明できる定型業務を選ぶ
手順が決まっている業務は、標準化や自動化に向いています。例えば、以下のような業務です。
- 決まったフォーマットへの入力
- 条件に応じた承認先の振り分け
- 定型メールの送信
- データの集計とレポート作成
反対に、経験者の暗黙知に強く依存し、判断根拠を説明できない業務は、いきなり自動化してはいけません。まず例外の種類と判断基準を整理する必要があります。
転記・待ち時間・手戻り・ミスが多い業務を探す
「忙しい」という感覚だけでは、改善すべき箇所を選べません。時間だけでなく、業務の停滞とやり直しも記録します。
特に、同じ情報を複数の画面に入力する業務は要注意です。データ連携で転記を減らせれば、作業時間だけでなく入力ミスも抑えられます。
承認待ちや確認待ちが長い業務は、ワークフローと通知の改善候補です。どこで、なぜ止まっているかを記録すると、適切な施策を選べます。
利用する情報をデータ化できるか確認する
デジタルツールは、正しいデータが入って初めて機能します。必要な情報が手書きメモ、口頭連絡、個人のファイルに分散している場合は、その整理から始めます。
確認すべき項目は以下です。
- 必要な情報がどこにあるか
- 記録形式や名称が統一されているか
- 更新者と更新タイミングが決まっているか
- 閲覧・編集の権限を分ける必要があるか
データの品質が低いまま自動化すると、誤った処理を早く繰り返す危険があります。自動化の前に、データの持ち方と更新ルールを整えましょう。
DXで人手不足を軽減する5つの施策
人手不足対策に使えるデジタル技術は多く、「自社にどれが合うのかわからない」と迷いがちです。ツール名から選ぶのではなく、減らしたい負担に合わせて施策を選びます。
主な施策は以下の5つです。
- 定型業務の自動化
- 情報探索と教育の効率化
- 業務システム間の連携
- 状況把握と判断の高速化
- 顧客対応の省力化
目的、向いている業務、導入時の注意点を順に見ていきましょう。
RPA・AI・ワークフローで定型業務を自動化する
手順が決まった繰り返し業務には、RPA、AI、ワークフローが活用できます。
RPAは、パソコン画面上のクリックや入力など、決められた操作を自動実行する仕組みです。AIは文書の分類、情報抽出、回答案の作成など、入力が完全に同じではない業務の補助に向きます。ワークフローは、申請、承認、通知、記録の流れをつなぎます。
どの手法でも、例外の扱いを決める必要があります。AIの出力を利用する場合は、誤りが起こる前提で確認者と利用範囲を設定しましょう。
クラウド・社内FAQ・マニュアルで情報探索と教育の負担を減らす
ベテランへの質問が集中している場合は、情報の共有方法を見直します。クラウド上のマニュアルや社内FAQで、必要な情報を自分で探せる状態を作ります。
重要なのは、資料の数を増やすことではありません。登録形式、保管場所、更新責任者、見直し期限を統一します。検索しても見つからなかった言葉を記録し、タイトルやタグを改善する運用も必要です。
新入社員の教育では、マニュアルを読むだけでなく、実務中に検索して使う機会を作ると定着しやすくなります。
ERP・業務SaaSで受注、在庫、会計、勤怠の重複入力をなくす
部門ごとに別々の表計算ファイルを管理していると、同じ情報の重複入力が発生します。ERP(企業資源計画システム)や業務SaaS(インターネット経由で利用する業務ソフト)を使うと、受注、在庫、請求、会計などのデータをつなげられます。
ただし、システムを統一する前に、データの名称と責任部門を決める必要があります。顧客名や商品コードの表記が部門ごとに違うと、連携後の集計が正しくなりません。
最初から全業務を一度に移行せず、受注から請求など、効果が大きい一連の流れを優先します。
BI・IoTで状況把握と判断を早める
データの収集や報告書作成に時間がかかると、問題を見つけても対応が遅れます。BI(ビジネスインテリジェンス)ツールは、複数のデータを集計・可視化し、状況を把握しやすくします。IoTは、設備や機器から稼働・温度・位置などのデータを取得する仕組みです。
これらは、判断自体をすべて自動化するものではありません。「どの数値がどの状態になったら誰が対応するか」を決めておく必要があります。ダッシュボードを作ることではなく、対応を早めることが目的です。
セルフレジ・オンライン予約・チャット対応で顧客対応を省力化する
店舗や窓口の人手不足には、顧客が自分で手続きできる導線が有効です。例えば、セルフレジ、モバイルオーダー、オンライン予約、よくある質問に対応するチャット機能などがあります。
ただし、すべての顧客をデジタル導線だけに限定すると、利用できない人が生じる可能性があります。対人対応が必要な場合の導線を残し、繰り返しの問い合わせと定型手続きから省力化するのが現実的です。
人手不足対策のDXを進める5つのステップ
「何から始めればよいかわからない」という場合は、ツールの比較から入らないことが重要です。目的と現状を整理し、小さく試して効果を測ります。
進め方は以下の5ステップです。
- 経営課題と減らしたい業務負担を定義する
- 業務フローと負担を可視化する
- 優先順位の高い1業務を小さくデジタル化する
- 導入前後を同じKPIで比較する
- 運用体制を整えて横展開する
1. 経営課題と減らしたい業務負担を定義する
最初に、DXで改善したい経営上の課題を言語化します。「DXを進める」だけでは、対象も成功条件も決まりません。
例えば、次のように具体化します。
- 受注処理の遅れを減らし、担当者が顧客対応に集中できるようにする
- 新人が単独で処理できる業務を増やし、教育担当者への質問を減らす
- 在庫の過不足を早めに把握し、緊急対応を減らす
課題を定義すると、ツールの機能数ではなく、課題を解決できるかで比較できます。
2. 業務フロー、工数、ミス、待ち時間を可視化する
次に、対象業務を開始から完了まで分解します。担当者、入力情報、作業、判断、承認、出力、使用ツールを業務フローに記録します。
各工程について、以下も記録します。
- 平均作業時間
- 一定期間の処理件数
- 承認や返答の待ち時間
- ミスと手戻りの件数
- 質問や例外対応の種類
実際の担当者へのヒアリングも欠かせません。手順書には現れない工夫や例外処理が、導入後の成否に影響するからです。
3. 優先順位の高い1業務を小さくデジタル化する
最初の導入範囲は、部門全体ではなく、1つの業務やチームに限定します。これにより、問題が起きたときの影響を抑えながら、実務に合うかを確認できます。
検証前に決める項目は、対象範囲、期間、利用者、KPI、中止条件、例外時の対応です。現行の手順に戻す方法も用意しておくと、安全に試せます。
小さく始める目的は、小さな成果で満足することではありません。予想と実務の違いを早期に見つけ、全社展開の失敗リスクを下げることです。
4. 導入前後を同じKPIで比較して改善する
導入効果は、利用者の印象だけで判断しません。導入前に測った作業時間、処理件数、ミス、待ち時間などを、導入後も同じ条件で測ります。
数値が改善していない場合は、原因を分けて考えます。ツールの操作が複雑なのか、データが不足しているのか、従来の作業が残っているのか、対象業務の選定が誤っていたのかを確認します。
効果の有無だけでなく、なぜその結果になったかを記録すると、次の導入に活かせます。
5. 手順、責任者、教育、問い合わせ導線を整えて横展開する
検証で成果が確認できたら、利用範囲を広げます。その際、ツールの設定だけを複製しても定着しません。
横展開の前に、以下を整えます。
- 標準手順と例外処理
- 運用責任者とデータ更新責任者
- 利用者の役割別の教育
- 問い合わせ先と対応履歴の管理方法
- KPIの確認頻度と改善会議の責任者
部門によって業務ルールが違う場合は、無理に統一しません。共通化する部分と、現場ごとに残す部分を分けて設計します。
業界別に見る人手不足DXの着手例
人手不足の現れ方は業界によって異なります。製造業では現場の記録と技術承継、建設業では現場と事務所間の情報共有、宿泊・飲食業では窓口対応とシフト調整が負担になりやすい領域です。
中小企業庁の白書でも、建設業、小売業、宿泊・飲食サービス業など、人手不足が深刻な業種でソフトウェア投資が増えていると紹介されています。ここでは成功事例ではなく、検討しやすい「着手例」を示します。
製造業は生産実績、検査、在庫、設備保全の記録から始める
製造業では、まず現場の記録をデータ化し、重複記入と集計作業を減らす方法があります。
例えば、生産数量、不良の種類、材料の使用量、設備の点検結果を紙で記録し、後で表計算ソフトに入力している場合です。現場で直接入力できる仕組みにすれば、転記と集計の手間を減らせます。
データが蓄積されれば、不良や停止が増える条件を比較する基盤になります。ただし、入力項目を増やしすぎると現場の負担が高まるため、判断に使う情報に絞ります。
建設業は日報、写真、工程、申請書類の共有から始める
建設業では、現場と事務所の間で発生する資料の受け渡しを見直せます。日報、工事写真、進捗、図面、申請書類などを共通の仕組みで管理する方法です。
スマートフォンやタブレットから現場で記録できれば、帰社後の転記を減らせます。写真に現場名、日付、工程などの情報をひも付ければ、後から探す時間も短縮できます。
現場は通信状況や作業環境が異なります。オフライン利用の可否、端末の操作性、情報管理のルールも確認が必要です。
宿泊・観光・飲食業は予約、注文、会計、シフト、多言語案内から始める
宿泊・観光・飲食業では、予約からサービス提供、会計までの情報をつなぐと、窓口業務を減らしやすくなります。
例えば、オンライン予約、モバイルオーダー、セルフチェックイン、セルフレジ、デジタル多言語案内などが着手候補です。予約情報とシフト管理を連携すれば、需要を見ながら配置を検討できます。
利用者によってデジタル操作への慣れは異なります。スタッフの案内が必要な端末を増やすと、かえって負担が増えることもあります。少数の端末や一部の手続きから試し、顧客と従業員の両方の反応を確認します。
DXを進める人材も不足している場合の対応
「人手不足をDXで解消したいが、DXを進める人材もいない」という二重の問題を抱える企業は少なくありません。IPAの「DX動向2025」では、調査対象となった日本企業の85.1%が、DXを推進する人材の量について不足と回答しています。参考:IPA「DX動向2025―AI時代のデジタル人材育成」
対応の軸は以下の4つです。
- 兼任でも責任者を決める
- 「DX人材」を必要な役割とスキルに分解する
- 外部に任せることと社内に残すことを分ける
- 公的な支援や診断ツールを活用する
以下で、専任のDX部門がない企業でも取り組める方法を解説します。
経営責任者と現場責任者を決めて兼任でも推進体制を作る
DXはIT部門だけに任せず、経営と現場の両方が責任を持つ必要があります。専任者を置けない場合でも、最終判断を行う経営側の責任者と、実際の業務を理解する現場責任者を決めます。
経営責任者は、優先順位、予算、部門間の調整を担います。現場責任者は、業務フロー、例外、利用者の声、運用上の問題を把握します。どちらか一方しかいないと、経営課題と実務のずれが大きくなります。
採用は「DX人材」ではなく必要な役割とスキルを具体化する
「DX人材を採用する」という募集では、任せたい仕事が候補者に伝わりません。必要な役割を先に定義します。
例えば、以下のように分けられます。
| 役割 | 主な仕事 | 必要な能力の例 |
|---|---|---|
| 業務改善の推進 | 課題整理、業務フロー作成、利用者調整 | 業務分析、進行管理、合意形成 |
| データ活用 | 指標設計、集計、分析 | データ整形、統計の基礎、業務理解 |
| システム導入 | 要件整理、ベンダー調整、受入テスト | IT基礎、要件整理、リスク管理 |
すべてを1人に求めるのではなく、社内の業務知識と外部の技術知識を組み合わせる設計も検討します。
外部パートナーに任せる範囲と社内に残す判断を分ける
社内に技術者がいない場合は、支援機関や外部パートナーを活用できます。ただし、目的や優先順位まですべて外部に委ねると、自社に合わない導入になる可能性があります。
外部に任せやすいのは、技術調査、設計支援、設定、開発、テスト支援などです。一方、以下の判断は社内に残します。
- 何の経営課題を優先するか
- どの業務を変えるか
- どのリスクを許容するか
- 導入後の運用を誰が担うか
- 成果をどのKPIで判断するか
外部パートナーの役割は、自社の判断を代行することではなく、判断に必要な専門性と実行力を補うことです。
支援機関やDX推進指標を使って現状と次の行動を整理する
中堅・中小企業が自社だけでDXの全体像を整理するのが難しい場合は、公的な支援機関や診断ツールを活用できます。経済産業省の「DX支援ガイダンス」でも、人材・情報・資金が不足する中堅・中小企業には、地域の支援機関による伴走支援が有効とされています。参考:経済産業省「DX支援ガイダンス」
IPAのDX推進指標は、経営幹部、事業部門、DX・IT部門などが現状認識を共有し、次の行動を考えるための自己診断です。診断結果を目的にせず、認識がずれている項目を議論する材料として使います。参考:IPA「DX推進指標とは」
人手不足DXが失敗する3つの原因
人手不足を解消しようとDXを始めても、現場の負担が減らないことがあります。主な原因は、目的、業務設計、現場参加、運用体制のいずれかが欠けていることです。
再編後の構成には、以下の4要因が含まれています。
- ツール導入が目的になっている
- 非効率な業務をそのままデジタル化している
- 現場の意見を確認していない
- 責任者と改善ルールがない
それぞれの失敗パターンと回避策を確認しましょう。
ツール導入が目的になってしまう
「同業他社が使っている」「AI機能がある」といった理由だけでツールを選ぶと、解決すべき課題が曖昧になります。機能が多くても、対象業務の負担が減らなければ人手不足対策にはなりません。
導入前に、「誰の、どの作業を、どの指標で改善するか」を1文で言えるようにします。説明できない場合は、ツール比較より前の課題整理に戻ります。
非効率な業務をそのままデジタル化してしまう
不要な手順をそのままシステム化すると、非効率が固定化されます。画面が紙に変わっただけで、承認回数や重複確認が残ることもあります。
デジタル化の前に、各工程を次の順で判断します。
- 廃止できないか
- 他の工程と統合できないか
- 回数や入力項目を減らせないか
- 標準化できないか
- その上で自動化できないか
「なくす」を先に検討すると、システムの複雑化も防げます。
現場の意見を確認しない
利用者の意見を確認せずに導入すると、例外処理や必要な情報が漏れることがあります。その結果、システムと紙・表計算ファイルの二重管理が生まれ、導入前より忙しくなる場合もあります。
現場の代表者には、導入後の説明会だけでなく、業務選定、要件整理、試用、評価の各段階に参加してもらいます。ただし、現行業務をそのまま残すのではありません。負担とリスクの両方を把握し、変える手順と残す手順を決めます。
責任者と改善ルールがない
導入時のプロジェクトが終わった後も、運用は続きます。責任者が不明確だと、データやマニュアルが更新されず、不具合や改善要望も放置されます。
運用前に、以下を決めます。
- 業務ルールの責任者
- ツール設定とアカウント管理の責任者
- データ品質の確認方法
- 利用者からの問い合わせ受付方法
- KPIと改善要望を確認する頻度
導入後1か月、3か月など、一定期間ごとに運用を見直します。問題が出たときだけでなく、定期的に改善する仕組みが必要です。
人手不足DXの効果を測るKPI
「導入したツールが使われているから成功」と判断するだけでは、人手不足の軽減につながったかわかりません。業務の速度、品質、従業員の負担、現場定着、コストの5つの面から確認します。
主なKPIは以下のとおりです。
| 目的 | KPI例 | 確認すること |
|---|---|---|
| 生産性 | 作業時間、処理件数、待ち時間 | 同じ人数で処理できる量と速度の変化 |
| 業務品質 | 入力ミス、手戻り、問い合わせ件数 | 自動化によりミスが別の工程に移っていないか |
| 従業員の負担 | 残業時間、休暇取得、業務偏在 | 特定の人だけに負担が残っていないか |
| 現場定着 | ツール利用率、対象業務の実施率 | 旧手順や個人ファイルとの二重運用がないか |
| 経済性 | 導入費、運用費、削減工数 | 維持・改修の負担も含めて継続すべきか |
以下で、各KPIの見方を解説します。
作業時間・処理件数・待ち時間で生産性を測る
生産性を見るときは、作業時間だけでなく、処理件数と待ち時間も測ります。作業時間が短くなっても、承認待ちが長くなれば、完了までの時間は改善しません。
業務量が時期によって変動する場合は、1件当たりの作業時間や、1人・1日当たりの処理件数で比較します。導入前後で対象範囲と集計方法を揃えることが重要です。
入力ミス・手戻り・問い合わせ件数で業務品質を測る
速度を上げても、ミスや手戻りが増えれば、全体の負担は減りません。ミスの件数だけでなく、種類と発見された工程も記録します。
社内FAQやマニュアルの導入では、問い合わせ件数が重要なKPIです。ただし、件数の減少だけでは不十分です。利用者が解決を諦めていないか、業務の停滞が増えていないかも確認します。
残業時間・休暇取得・業務偏在で負担の変化を測る
人手不足対策の成果は、従業員の負担にも現れます。残業時間、休暇を取得できた人の割合、特定の人に集中している業務の数などを確認します。
平均値だけでは、一部の担当者への偏りを見落とすことがあります。部門・役割・個人の範囲でばらつきを確認します。個人の勤務データを扱う際は、閲覧権限と利用目的を明確にする必要があります。
ツール利用率・対象業務の実施率で現場定着を測る
定着の判断では、ログイン回数だけでなく、対象業務が新しい手順で完了した割合を確認します。ログインしていても、旧来の表計算ファイルを正本として使っていれば、業務は切り替わっていません。
利用されない理由は、操作が難しい、処理が遅い、必要な情報がない、例外を扱えないなどに分けます。利用率の数値とヒアリングを組み合わせると、改善箇所を特定しやすくなります。
導入費・運用費と削減工数を並べて継続判断する
費用対効果を確認するときは、導入時の支払いだけでなく、運用に必要な人の工数も含めます。
費用側には、ライセンス、開発・設定、データ移行、教育、保守、改修などがあります。効果側には、削減した作業時間、ミス・手戻り、外注、緊急対応などを置きます。
削減工数は、すぐに人件費の削減につながるとは限りません。空いた時間を顧客対応、改善、育成などに再配分できたかまで確認すると、人手不足対策としての価値を判断できます。
まとめ
人手不足対策としてのDXは、人を一律にシステムで置き換える取組ではありません。不要な業務をなくし、定型作業を自動化し、人の判断と対話が必要な仕事に集中できる体制を作ることが目的です。
進め方の要点は以下のとおりです。
- まず業務フローと工数を可視化する
- 発生頻度が高く、手順が定型的な1業務から始める
- 不要な工程を廃止・統合してからデジタル化する
- 導入前後を同じKPIで比較する
- 責任者、教育、問い合わせ導線を整えて改善を続ける
最初から全社的な大規模変革を目指す必要はありません。効果を測りやすい小さな業務から試し、KPIと現場の声を使って改善します。成果を確認できた範囲から横展開することが、現場の負担と投資リスクを抑える進め方です。



