「他社のリスキリング事例を、自社の人材育成にも生かしたい」「研修を導入しても、実務で使われずに終わらないか不安」と感じていませんか。

リスキリングを成功させる鍵は、人気の講座を導入することではありません。経営課題から必要な人材像を定め、学習を実務や配置、評価までつなげることです。

本記事では、国内大手企業、中小企業、海外企業のリスキリング事例12選を紹介します。各事例を次の視点で比較しました。

  • 取り組みの目的
  • 対象者
  • 学習内容
  • 実務への接続方法
  • 成果の捉え方

成功企業の共通点や失敗例も踏まえ、自社で施策を始める5つのステップまで解説します。

リスキリングの企業事例を5つの観点で比較

「自社に近い事例がどれかわからない」という場合は、企業名や研修内容だけで比べないことが大切です。まずは、各社が解決したかった課題と、学んだ後の活用方法に注目しましょう。

企業・組織主な目的主な対象学習・支援内容実務への接続・成果の捉え方
富士通事業変革を担う人材の強化役割別の社員DX・コンサルティングスキル研修とOJTを組み合わせる
日立製作所グループのDX推進全従業員・専門人材DX基礎から専門教育実践研修や社内活動へ接続
ダイキン工業AI・IoT人材の内製管理職・既存社員・新入社員AI、情報技術、PBL部門課題や事業創出に活用
JFEスチール製造・業務改革一般社員から専門人材AI・データサイエンス階層別育成とOJTで活用
キヤノンDXリテラシーと技術人材の強化全職種・専門人材DX、AI、プログラミング、データ活用OJT、専門教育、職種転換へ接続
ユーミック場当たり的な育成の改善全社育成計画の見直し育成体系の整備へ接続
第一サービスソリューションズDX推進と業務改善管理部・DX推進者DX・生産性向上の基礎小規模受講から社内展開
ぶるーむ手仕事を支える周辺業務の効率化意欲のある社員eラーニング、マーケティング学習時間と導入体制を整備
三協丸筒人材確保と小規模組織の成長経営者・従業員課題整理と人材育成日常業務と成長戦略を結ぶ
AT&T技術・事業構造の変化への対応既存社員技術スキル、職種別AI教育将来の役割と学習内容を結ぶ
Amazon需要の高い職種への移行支援現場社員を含む従業員学費支援、職種別訓練、実習キャリア移行と収入機会へ接続
Bosch技術転換に対応できる組織づくり従業員継続学習と職業訓練学習する組織として変化へ対応

比較表からわかるのは、成果を出す企業ほど「誰に何を学ばせるか」の前に、学習を必要とする事業課題を置いていることです。また、研修だけで完結させず、OJTや現場プロジェクト、キャリア形成と結びつけています。

リスキリングとは?

「通常の社員研修と何が違うのか」と疑問に感じる方もいるでしょう。リスキリングは、現在の仕事を上達させるだけでなく、事業や職務の変化に対応するために新しい能力を身につける取り組みです。

ここでは、リスキリングの意味と、混同されやすいスキルアップ・リカレント教育との違いを整理します。

事業変化に必要な新しいスキルを身につける取り組み

リスキリングとは、事業環境の変化によって生まれる新しい業務や役割に対応するため、必要な知識や技能を学ぶことです。

たとえば、製造現場の担当者がデータ分析を学び、設備の異常検知に活用するケースが挙げられます。営業担当者がデジタルマーケティングを学び、顧客データを基に提案方法を変えることもリスキリングです。

学習分野はAIやDXに限りません。新規事業、業務改善、マーケティング、マネジメントなども対象になり得ます。重要なのは、経営戦略や業務課題と結びついた新しい役割があることです。

IPAのデジタルスキル標準は、全ビジネスパーソン向けのDXリテラシーと、DX推進人材向けの専門スキルを分けています。デジタル領域で学習内容を決める際の共通言語として利用できます。

スキルアップ・リカレント教育との違い

リスキリング、スキルアップ、リカレント教育は、目的と学び方が異なります。

用語主な目的仕事との関係
リスキリング新しい役割や職務へ対応する企業戦略や職務転換と結びつく営業職がデータ活用を学び、DX推進を担う
スキルアップ現在の仕事の能力を高める今の職務の延長にある営業担当者が商談力を高める
リカレント教育社会人が教育機関などで学び直す個人の学習やキャリア形成の意味が強い社会人が大学院で専門分野を学ぶ

実際の制度では、これらが重なる場合もあります。名称にこだわるより、事業上の目的、学習後の役割、実践機会が明確かを確認するほうが重要です。

国内大手企業のリスキリング事例5選

「大企業の取り組みは規模が大きく、自社ではまねできない」と感じるかもしれません。しかし、制度全体をコピーする必要はありません。

国内大手5社から学ぶべき点は、次のとおりです。

  • 事業戦略と人材育成を結びつける
  • 基礎教育と専門教育を分ける
  • 現場課題を教材にする
  • 習得レベルに応じて対象者を分ける
  • 研修後の実践や職種転換を用意する

各社の公開情報を基に、再現できる設計要素を見ていきましょう。

富士通|事業戦略と人材戦略を結び、研修とOJTを組み合わせる

富士通の特徴は、事業戦略で必要となる役割から、リスキリングの対象と内容を決めている点です。

同社は全社施策と各部門の施策を分け、部門側では事業ニーズに応じて強化する人材やスキルを明確にしています。コンサルタント育成では、共通スキルの学習と実践経験を組み合わせています。

また、Business Application領域では、対象者の役割に合わせたプログラムを構築。教育とOJTを通じて、現場での早期戦力化につなげています。詳細は富士通の人材育成に関する公式ページで確認できます。

自社で応用する際は「全社員に同じ講座を受けさせる」のではなく、将来必要な役割を先に定めましょう。そのうえで、役割別の学習と実務経験をセットにします。

日立製作所|全社のデジタル基礎教育と専門人材育成を分ける

日立製作所の事例から学べるのは、全社員に必要な基礎と、専門人材に必要な能力を分ける考え方です。

日立グループは、DXに必要な知識やスキルを全従業員が継続的に高められるよう、情報発信、実践研修、社内コミュニティなどを展開しています。同時に、グローバルなIT・DX人材の育成にも取り組んでいます。取り組みは日立グループ ITパフォーマンスレポートに記載されています。

全員を専門家にする必要はありません。全社員にはデジタルを安全に使う基礎を提供し、推進担当者には課題設定やプロジェクト実践を含む教育を行う。この二層構造は、企業規模を問わず参考になります。

ダイキン工業|社内講座と現場課題を結び、デジタル人材を内製する

ダイキン工業は、学習と現場課題を強く結びつけた事例です。

同社は「ダイキン情報技術大学」で、数学の基礎からプログラミング、機械学習、AI応用まで教育しています。管理職、既存社員、新入社員に分けた育成を行い、部門の実際の課題を扱うPBL(課題解決型学習)も取り入れています。

同社の2025年公表資料では、2024年度末までに約1,800人のデジタル人材を育成したとしています。また、社長表彰案件の一部に修了者が参画したことも示しています。詳しくはダイキン工業の有価証券報告書で確認できます。

学習成果を現場で出すには、自社の設備、顧客、業務データを題材にすることが有効です。知識確認テストだけでなく、業務課題の解決までを修了条件にすると実践へつながります。

JFEスチール|階層別にデータ活用人材を育てる

JFEスチールの特徴は、データサイエンス人材を一種類にまとめず、役割と習熟度に応じて階層化したことです。

同社は、高度な分析を担う人材、現場で活用を広げる人材、ツールを使う人材、基礎リテラシーを持つ人材に分けて育成しています。一般社員にはeラーニングを提供し、上位層には研修やOJTを組み合わせました。JFEスチールのDXレポートでは、階層別の対象者と育成方法が示されています。

この設計なら、全員に高度な統計やプログラミングを求めずに済みます。まず業務でデータを使う人を増やし、難しい課題は専門人材が支える構造を作れます。

キヤノン|職種転換と現場のデジタル活用を支える

キヤノンは、全職種の基礎教育と専門人材の育成を並行しています。

同社は2023年から、全職種を対象とするDXリテラシー研修を開始しました。AI、プログラミング、データ活用の講座も社内へ展開しています。さらに、ソフトウェア技術者向けの育成機関では、専門能力の向上だけでなく、職種転換を目指す社員の教育も行っています。

キヤノンの人材育成に関する公式情報では、OJTと研修、大学などへの派遣を組み合わせた仕組みを確認できます。

基礎教育だけで終わらせず、専門教育や職種転換の経路を用意することで、学びがキャリア上の選択肢になります。

中小企業のリスキリング事例4選

「人員や予算に余裕がない中小企業でも実施できるのか」と不安に感じる方は多いでしょう。中小企業では、大規模な研修制度を一度に作る必要はありません。

厚生労働省の中小企業リスキリング支援事業では、課題整理から始めた事例が公開されています。ここでは、製造、設備サービス、手仕事、小規模製造の4例を紹介します。

製造業|現場業務のデジタル化を担う人材を育てる

製造業では、ツール導入より先に育成方針を整えることが重要です。

表面処理と高精度加工を手がけるユーミックは、従業員約60名の企業です。同社には事業内職業能力開発計画があったものの、運用が場当たり的になっていました。そこで外部支援を利用し、計画と育成体系の見直しに着手しています。

この事例のポイントは、いきなり研修を増やさず、現在の育成状況を整理したことです。研修一覧ではなく「どの業務を誰が担えるようになるか」を計画に落とすことで、投資の優先順位をつけやすくなります。詳細は厚生労働省のユーミック支援事例で確認できます。

建設・設備業|新事業に必要な技能を身につける

DX推進の担当部門を決め、小さく学び始める方法は、中小企業でも実行しやすい進め方です。

ビルメンテナンスや設備工事を行う第一サービスソリューションズは、システム間の分断や手入力を課題としていました。中期経営計画に「デジタル化」と「人材育成」を掲げ、まず管理部とDX推進担当者が公的機関の講座を受講しています。

最初から全社研修を行わず、推進役が基礎知識を身につけ、良い講座を社内へ広げる設計です。詳細は厚生労働省の支援事例に掲載されています。

小売・サービス業|データ活用で販売・顧客対応を改善する

リスキリングは、現場の大切な仕事に集中するためにも活用できます。

押し花加工を手がけるぶるーむは、従業員約70名の企業です。FAXや手書き注文、目視確認、在庫管理など、制作以外の業務負担を課題としていました。外部支援を通して課題を整理し、オンデマンド学習やマーケティング教育を検討しています。

この事例では、効率化が目的ではなく「花と向き合う時間を守る」ことが出発点です。学習時間を確保する体制も含めて検討している点が参考になります。詳細はぶるーむの支援事例を参照してください。

小規模事業者|経営者と現場が一緒に学び、身近な業務から変える

少人数の会社では、経営者自身が学習と業務改善に参加することが欠かせません。

紙管製造業の三協丸筒は、従業員8名の企業です。全員が複数の職務を担い、経営者も製造現場に入るため、経営課題や販路開拓が後回しになっていました。同社は外部支援を使い、日常業務と人材育成、成長戦略を整理しています。

小規模企業では、一人の学びが組織全体へ与える影響が大きくなります。一方で、研修中の代替要員を確保しにくいため、短時間の学習と身近な実務課題を組み合わせる設計が現実的です。詳細は三協丸筒の支援事例で確認できます。

海外企業のリスキリング事例3選

海外企業の事例は規模や雇用制度が異なるため、そのまま導入するのは難しいでしょう。ただし、将来必要な職務の可視化や、キャリア移行を支える仕組みは参考になります。

ここでは、AT&T、Amazon、Boschの取り組みを紹介します。過去に始まった施策と現在の制度を分けて確認することが重要です。

AT&T|事業転換に合わせて将来必要なスキルへの移行を支援

AT&Tの事例は、事業の技術転換と学習内容を結びつけた代表例です。

同社は通信ネットワークがハードウェア中心からソフトウェア中心へ変わる中、既存社員の再教育を選びました。過去のFuture Readyでは、職務に必要な能力と利用できる学習資源を社員へ示しています。

現在は生成AI教育も展開しています。2025年には社内AI向けの基礎・中級・上級学習に加え、職種別教育や社内アンバサダー制度を拡充しました。詳細はAT&TのResponsible AIで確認できます。

変化する技術を学ばせるだけでなく、そのスキルがどの役割に必要なのかを示すことが、社員の参加理由になります。

Amazon|職種別の学習機会とキャリア移行を支援

Amazonは、現場社員を含む幅広い従業員に学習機会を提供しています。

同社のCareer Choiceは、需要の高い職種に必要な教育を支援する制度です。対象分野にはITサポート、ソフトウェア開発、輸送、設備関連などが含まれます。ロボティクスや技術職への実習制度も展開しています。

Amazonは2025年、教育・訓練プログラムを利用した従業員が世界で70万人を超えたと公表しました。これは企業による自己申告値であり、成果を評価する際は参加人数だけでなく、修了後の職務や処遇の変化も見る必要があります。詳細はAmazon公式発表を参照してください。

自社で応用するなら、学習メニューを増やすだけでなく、学習後に応募できる職務やキャリアパスを明示します。

Bosch|デジタル化・電動化に対応するため既存人材を再教育

Boschは、継続学習を企業の変化対応力として位置づけています。

同社は事業領域の変化に合わせ、従業員が新しい技術や役割を学び続けられる制度を展開しています。Boschの経営陣は、会社を「学習する組織」と位置づけ、リスキリングと継続教育への投資を説明しています。

重要なのは、特定の研修を一度実施することではありません。事業が変わるたびに必要な能力を見直し、学び直せる状態を保つことです。詳細はBoschの経営トップインタビューで確認できます。

12社の事例からわかるリスキリング成功の5つのポイント

「事例は理解できても、自社で何を変えればよいかわからない」という方もいるでしょう。12社の取り組みからは、共通する5つの設計原則が見えてきます。

  • 経営戦略から人材像を決める
  • 現在地に応じて学習を分ける
  • 学習時間と参加理由を用意する
  • 学びを実務や配置につなげる
  • 行動・業務・事業の指標で測る

ここからは、自社の施策へ取り入れる方法を解説します。

1. 経営戦略から必要な人材像・スキルを定義する

最初に決めるべきなのは、講座ではなく人材像です。

たとえば「生成AIを学ぶ」だけでは、必要なレベルを判断できません。「営業部門の提案準備を生成AIで効率化し、安全な利用を社内へ広げる担当者を育てる」と定めれば、必要な知識や実践課題が具体化します。

IPAのデジタル人材育成モデルでも、企業のDX戦略と必要人材を結びつける考え方が示されています。経営課題、人材の役割、スキル、学習内容の順で設計しましょう。

2. 対象者の現在地からレベル別に設計する

全員に同じ研修を受けさせても、理解度や業務との関係に差が出ます。

少なくとも、対象者を次の3層に分けると設計しやすくなります。

目標学習例
全社員新しい技術を安全に使い、変化を理解する基礎リテラシー、情報管理
活用人材担当業務で技術を使い、改善するツール操作、データ活用、業務課題演習
推進人材部門横断で変革を設計・推進する課題設定、プロジェクト管理、専門技術

事前テスト、自己評価、上司との面談などで現在地を確認し、必要な学習だけを割り当てます。

3. 学習時間の確保・参加する理由を明確にする

業務時間外の自己学習だけに頼ると、忙しい人ほど参加できません。

勤務時間内の学習枠、上司の支援、受講中の業務調整を制度として決める必要があります。また、学習後に任される仕事やキャリア上の利点も示しましょう。

受講案内では「会社が決めたから」ではなく、事業の変化、本人に期待する役割、学習後の機会を説明します。参加する理由が具体的であるほど、学習が継続しやすくなります。

4. 研修とOJT・実務課題・配置転換をつなげる

知識を定着させる最も確実な方法は、実務で使うことです。

研修後30日以内に、小さな実務課題へ取り組めるようにします。たとえば、定型レポートの作成時間を減らす、問い合わせ分類を改善する、設備データを可視化するといった課題です。

専門人材を育てる場合は、OJTやプロジェクト配属、社内公募も組み合わせます。学習と仕事の間に空白を作らないことが重要です。

5. 行動・業務・事業指標で効果を測る

受講率や修了率だけでは、リスキリングの成果を判断できません。

成果指標は、次の3段階で設定します。

段階指標例
行動新しいツールの利用回数、実務課題の完了率、社内共有回数
業務作業時間、手戻り件数、エラー率、提案数
事業売上、利益、新規サービス数、顧客満足度

研修前の数値を記録し、研修後に同じ条件で比較します。すぐに事業成果が出ない場合でも、行動と業務の変化を追えば改善できます。

リスキリングでよくある失敗事例

「費用をかけたのに使われない」という事態は、研修の質だけが原因ではありません。対象者、実践機会、上司の支援、配置・評価が分断されている場合に起こりやすくなります。

代表的な失敗は次の4つです。

  • 流行のスキルを全員に一律で学ばせる
  • 受講後に実務で使う場がない
  • 現場任せで学習時間を確保しない
  • 修了しても配置や評価が変わらない

原因と対策を順番に確認しましょう。

流行のスキルを全員に一律で学ばせる

話題性だけで学習テーマを選ぶと、業務との関係が見えず形骸化します。

生成AI、データ分析、プログラミングのどれを選ぶ場合も、解決する業務課題を先に決めましょう。全社員に必要なのが基礎理解だけなら、短い共通研修にとどめます。専門教育は実際に担当する人へ絞るのが合理的です。

受講が目的になり、実務で使う場がない

修了証を得ても、業務で使わなければスキルは定着しません。

研修を選ぶ時点で、受講後の実務課題と担当業務を決めます。現場データを使った演習、OJT、成果発表会を組み合わせると、上司も学習成果を確認できます。

現場任せで学習時間と上司の支援を確保できない

「空いた時間に学ぶ」という運用では、通常業務が優先されます。

月ごとの学習時間、繁忙期の扱い、代替要員、上司の役割を決めてください。部下が学習している間の業務をどう回すかまでが、育成計画の一部です。

修了者の配置・評価・キャリアパスが変わらない

学んでも新しい仕事を任されなければ、社員は学習の価値を感じにくくなります。

修了者が応募できる社内公募、プロジェクト参加、スキル手当、評価項目などを整えましょう。すべてを同時に変えられない場合は、まず実務プロジェクトへの参加機会を用意します。

事例を自社の施策に落とし込む5ステップ

「何から始めるべきか」と迷ったら、全社制度の完成を目指さず、一つの課題と小さな対象部門から始めましょう。

進め方は次の5ステップです。

  1. 解決する課題を一つに絞る
  2. 必要な役割・スキル・対象者を決める
  3. 学習と実践を一つの計画にする
  4. 小さく試して成果を測る
  5. 配置・評価と結び、対象を広げる

1. 解決したい経営・業務課題を一つに絞る

最初の施策では、課題を広げすぎないことが重要です。

「DXを進める」ではなく「営業報告の集計時間を減らす」「設備停止の予兆を見つける」まで具体化します。課題の担当部門、現状値、目標値も記録しましょう。

2. 必要な役割・スキル・対象者を決める

課題を解決する人の役割を文章で定義します。

次に、その役割に必要な知識、ツール操作、課題設定力などを洗い出します。対象者は本人の希望だけでなく、現在の業務経験、学習意欲、上司の支援可否も踏まえて選びます。

3. 学習・実践・フィードバックを一つの計画にする

計画には研修日程だけでなく、実務課題と振り返りを入れます。

たとえば、4週間の基礎学習、4週間の実務課題、成果発表と改善という流れです。担当上司や専門家が途中でフィードバックできる機会も設定します。

4. 小さな対象部門で試し、成果指標を測る

最初は5〜10人程度、または一つのチームで試すと調整しやすくなります。

開始前に作業時間やエラー数などを測り、終了後と比較します。うまくいかなかった場合も、対象者、教材、学習時間、実務課題のどこに原因があるかを分けて検証してください。

5. 配置・評価制度を整えて全社へ展開する

試行で再現性を確認できたら、対象部署を広げます。

修了者の役割、プロジェクトへの配置、上司の評価項目を整えます。教材は一度作って終わりにせず、技術や事業の変化に合わせて更新しましょう。

まとめ

リスキリングの企業事例に共通するのは、研修そのものよりも前後の設計を重視していることです。

成功へ近づくポイントは次の5つです。

  • 経営課題から必要な人材像を定める
  • 対象者のレベルに合わせて学習内容を変える
  • 勤務時間内に学習と実践の機会を確保する
  • 研修をOJT、配置、キャリア形成につなげる
  • 受講率だけでなく、行動・業務・事業の変化を測る

最初から大規模な制度を作る必要はありません。まず一つの業務課題を選び、対象者と、90日以内に試せる実務課題を決めましょう。小さく試して改善を重ねることが、自社に合うリスキリングの仕組みを作る近道です。