「ペーパーレス化を進めたいが、何から手を付ければよいか分からない」「他社の成功事例を自社に生かしたい」と悩んでいませんか。

ペーパーレス化は、紙をPDFに置き換えるだけの施策ではありません。紙を前提にした申請、承認、保管、検索などの業務を見直し、情報をデータとして活用できる仕組みに変える取り組みです。

成功している組織は、いきなりすべての紙をなくしてはいません。対象業務を絞って試し、現場の意見を反映しながら運用ルールを整えています。

この記事では、企業・自治体・学校における8つの成功事例を紹介します。成功のポイントや進まない理由、具体的な進め方も解説するため、自社の計画づくりにお役立てください。

ペーパーレス化の成功事例8選を一覧で比較

自社と同じ業種の事例だけを見ると、応用できる取り組みを見落とすことがあります。「どの業務に、どのような問題があったか」に注目しましょう。

組織対象業務導入前の課題主な施策確認できた効果成功要因
愛知県大府市会議資料・行政文書印刷量と保管場所が増加タブレット、電子会議、印刷状況の分析A4用紙購入量を36万枚以上削減実態調査、試験導入、幹部の率先
文部科学省掲載の学校事例職員会議印刷・製本と集合の負担クラウド共有とウェブ会議印刷準備を短縮し、離れた場所から参加可能に会議方法まで見直したこと
福島県郡山市要介護認定事務・審査会調査票確認と大量の会議資料が負担PDF入力、AI確認、オンライン審査会調査票確認を1件平均約40分から約5分へ短縮業務を棚卸しし、人が担う仕事を分けたこと
朝日新聞倉敷販売株式会社経理証憑・仕訳複数拠点の処理と紙の保管負担証憑の電子化とクラウド会計月次締めから月次決算までの期間を半分に短縮現場の作業を大きく変えずに移行
社会医療法人明和会勤怠・給与・労務紙とExcelへの手入力、二重入力勤怠・給与・人事システムの連携給与処理を含む業務時間を削減説明会、マニュアル、問い合わせ対応
株式会社ヒューマンウェア入社手続き・給与明細情報が紙・Excel・システムに分散人事データベースと手続きの段階的な電子化印刷・封入時間を月12時間削減経営課題として全社で推進
株式会社サンゲツ申請・承認紙の申請と文書管理が負担ワークフローによる電子化公開事例では年間1,600時間の業務短縮紙だけでなく業務の流れも電子化
セントラルソフト株式会社申請書・業務連絡社外勤務者が紙を扱いにくい申請から業務連絡までワークフロー化業務工数削減とペーパーレス化社外勤務を前提に範囲を設計

表内の数値は、公的機関またはサービス提供会社が公開する事例に基づきます。効果は組織規模や対象業務によって異なります。

大府市は、各部署の印刷枚数と複合機の利用状況を調査し、内部事務用プリンタを原則撤去しました。会議資料はワンファイルにまとめ、電子資料を探しやすくするルールも整備。その結果、2019年度のA4用紙購入量を前年度比7.1%、36万枚以上削減しています。一方、大きな図面などは紙を使うルールを残しました。地方公共団体情報システム機構の大府市事例で確認できます。

学校の職員会議では、資料をクラウド上で共有し、ウェブ会議ソフトを併用しました。印刷・製本の時間を短縮できるほか、離れた場所から資料を見ながら参加できます。単に資料を電子化せず、参加方法まで変えた点がポイントです。詳細は文部科学省の実践事例に掲載されています。

郡山市は、要介護認定事務を4つのフェーズに整理しました。そのうえで、デジタル化する仕事と人が処理したほうが効率的な仕事を分類しています。認定調査票の確認にはAIを導入し、1件平均約40分かかっていた作業を約5分に短縮。一方、訪問調査ではタブレット入力が非効率になる場面があり、紙のメモを残しました。詳細はデジタル庁ニュースの郡山市事例を参照してください。

企業事例でも、紙だけでなく業務全体を見直しています。朝日新聞倉敷販売株式会社は、複数拠点の経理と証憑管理をクラウド化しました。社会医療法人明和会は、勤怠・給与・人事の分断を解消。株式会社ヒューマンウェアは、影響範囲を考慮しながら人事労務業務を段階的に電子化しました。詳細はOBCの事例記事に掲載されています。

株式会社サンゲツとセントラルソフト株式会社は、申請書を電子化するだけでなく、承認経路や入力項目をワークフローとして整えました。紙の置き換えと業務プロセスの見直しを同時に進めた事例です。出典はサイオステクノロジーの事例記事です。

成功事例に共通する5つのポイント

事例と同じツールを導入するだけでは成功しません。組織によって、紙を使う理由や業務上の制約が異なるためです。

成功事例には、次の5つの共通点があります。

  • 紙の削減ではなく業務上の課題を目的にする
  • 紙を使う業務とコストを棚卸しして対象を絞る
  • 一部の部署・業務で試してから段階的に広げる
  • 現場が使いやすいツールと運用ルールを一緒に設計する
  • 効果を測り、経営層と現場へ共有する

1. 紙の削減ではなく業務上の課題を目的にする

最初に決めるべきことは、解決したい業務課題です。紙の削減枚数だけを目標にすると、紙の帳票をPDFへ変換しただけで終わりやすくなります。

目的は「申請から承認までの時間を短縮する」「転記をなくす」「出社しなくても処理できる」など、業務の変化で表しましょう。郡山市が紙を残す判断をできたのも、処理時間と職員負担の改善を目的にしていたためです。

2. 紙を使う業務とコストを棚卸しして対象を絞る

紙が発生する場所と前後の作業を洗い出します。印刷費だけでは、本当に負担が大きい業務を見落としかねません。

確認項目内容
対象書類会議資料、申請書、契約書、請求書、点検表など
発生量月間の枚数、件数、ファイル数
関係者作成者、確認者、承認者、取引先
付随作業印刷、押印、封入、郵送、転記、保管、廃棄
制約法令、原本要否、セキュリティ、現場環境

現状を数値で把握すると、対象範囲と導入後のKPIを決めやすくなります。

3. 一部の部署・業務で試してから段階的に広げる

最初から全社一斉に切り替える必要はありません。件数が多く、関係者が少なく、効果を測りやすい業務から試します。

試行中は、操作時間、差し戻し件数、問い合わせ内容を記録してください。問題を解消してから横展開すれば、同じ失敗を繰り返さずに済みます。

4. 現場が使いやすいツールと運用ルールを一緒に設計する

機能が多いツールより、現場の業務に合うツールが重要です。入力や検索が複雑になると、従業員は紙や個人管理へ戻ってしまいます。

ファイル名、保存場所、承認経路、アクセス権限、原本を残す条件、障害時の手順、問い合わせ先も決めましょう。社会医療法人明和会のように、説明会やマニュアルも一体で設計すると定着しやすくなります。

5. 効果を測り、経営層と現場へ共有する

導入前後の変化を測り、改善を続けます。印刷枚数のほか、承認時間、転記時間、差し戻し件数、文書の検索時間、利用率などを確認してください。

成果を現場へ共有すれば、変更の意味を実感してもらえます。経営層には、削減時間をどの業務へ振り向けたかまで報告すると、次の投資判断につながります。

ペーパーレス化で得られる主な効果

ペーパーレス化の効果は紙代の削減だけではありません。紙を扱う前後の作業や情報共有にも影響します。

印刷・郵送・保管・廃棄コストを減らせる

用紙やトナーに加え、複合機、封筒、郵送料、外部倉庫、溶解処理などの費用を減らせます。印刷、製本、封入、ファイリングに使う時間も削減対象です。

費用対効果は「削減できる直接費+削減時間に対応する人件費-システムの利用・運用費」で考えます。空いた時間を何に使うかも明確にしましょう。

検索・共有・申請・承認にかかる時間を短縮できる

適切な属性を付けて保存すれば、文書名、取引先、日付などで検索できます。ワークフローシステムでは、申請の現在地や承認履歴も確認可能です。

ただし、保存場所や命名規則が曖昧では電子ファイルが増えるだけです。検索性の設計まで含めて取り組む必要があります。

テレワークや拠点間の情報共有を進めやすくなる

権限を持つ人が安全にアクセスできれば、紙の確認や押印のための出社を減らせます。複数拠点では、郵送や担当者の移動も削減できます。

社外から利用する場合は、多要素認証や端末管理が必要です。利便性とセキュリティを同時に設計してください。

アクセス権限・履歴・バックアップを管理しやすくなる

電子文書は、閲覧・編集権限や操作ログを管理できます。ただし、電子化すれば自動的に安全になるわけではありません。

共有リンク、退職者のアカウント、端末紛失、バックアップの管理が必要です。紙の紛失リスクを、データの漏えいや消失リスクへ置き換えないようにしましょう。

データを集計・連携し、業務改善へつなげられる

内容をデータとして扱えると、集計やシステム連携が可能になります。申請が滞る部署を分析したり、請求書データを会計システムへ連携したりできます。

画像として保存するだけでは十分に活用できない場合があります。将来の検索、集計、連携まで考えてデータ形式を決めてください。

ペーパーレス化が進まない理由

ツールを導入しても紙が減らない場合、技術より目的や運用設計に問題があるケースも少なくありません。

目的が「紙をゼロにすること」になっている

紙の削減枚数だけを目標にすると、入力のしやすさや処理時間が後回しになります。「検索時間を減らす」など、利用者が実感できる目標へ置き換えてください。

紙とデジタルの二重運用が残っている

両方へ同じ情報を入力すると、負担はかえって増えます。正本をどちらにするか、紙を残す条件、並行運用の終了日、過去文書をどこまで電子化するかを決めましょう。

現場を巻き込まず、ツールだけを導入している

現場の例外処理が抜けると、導入後に手作業が増えます。担当者には現状把握から参加してもらい、紙へ戻したくなった場面を聞き取ってください。反対意見は、運用上の問題を早期発見する情報です。

紙のほうが適する場面まで無理に電子化している

大きな図面を並べる作業や、通信環境が不安定な現場では、紙が適することがあります。郡山市も訪問調査では紙メモを残し、その後の確認と審査会をデジタル化しました。

紙とデジタルの使い分けは失敗ではありません。業務全体の時間、正確性、利用環境を踏まえた判断です。

自社でペーパーレス化を進める5ステップ

最初にツールを比較するのではなく、業務の棚卸しから始めます。

1. 紙を使っている業務と発生コストを洗い出す

部署ごとに紙を使う業務を一覧にし、作成から廃棄までを追います。印刷、押印、郵送、転記が発生する回数と時間も記録してください。

2. 効果・難易度・法令要件から最初の対象を決める

件数、作業時間、ミス、関係者数、例外処理、法令、現場環境を評価します。効果が大きく、難易度が低い業務を最初の候補にします。

3. 小さな範囲で試行し、現場の意見を集める

一つの部署や一種類の申請で試します。期間とKPIを決め、導入前と比較してください。紙へ戻した理由も記録すると、横展開前の問題が分かります。

4. 運用ルールと教育・問い合わせ体制を整える

利用者が迷う場面を減らすため、短く具体的なルールを作ります。操作方法だけでなく、変更理由も説明してください。質問をFAQへ反映すると定着が進みます。

5. KPIを測定し、改善してから他部署へ展開する

期待した効果が出ない場合は、利用率と業務フローの両方を見直します。効果が確認できたら、設定内容、問題、対応策を横展開用にまとめましょう。

業務別に選ぶペーパーレス化の方法

知名度や機能数ではなく、対象業務、既存システムとの連携、操作性、検索性、権限、バックアップ、費用、サポートで方法を選びます。

会議資料|クラウドストレージ・会議システム・端末

資料の格納場所、ファイル名、更新期限を統一します。画面サイズや書き込みのしやすさも確認し、必要なページだけ印刷する例外も検討しましょう。

申請・承認|ワークフローシステム

稟議、経費、休暇などの入力項目と承認順序を設定できます。紙様式をそのまま再現せず、不要な項目や承認がないか見直してください。

契約書|電子契約・文書管理システム

締結だけでなく、作成、審査、承認、更新、保存まで設計します。取引先の対応状況や契約類型を確認し、法的判断が必要なら法務担当者や弁護士へ相談してください。

請求書・領収書|請求書受領・発行システムと電子保存

発行側では送付と控えの保存、受領側では回収、確認、承認、会計連携を設計します。メールやクラウドで受け取った電子取引データは、電子帳簿保存法の要件に沿った保存が必要です。

紙帳票・現場記録|OCR・入力フォーム・業務アプリ

選択式の入力フォームや業務アプリを使うと、集計と共有を効率化できます。OCRは画像内の文字をデータ化する技術ですが、手書きや汚れた帳票では精度が下がる場合があります。実際の作業環境で試してください。

ペーパーレス化で確認したい法令・セキュリティ

文書の種類や受領方法によって確認すべき要件は異なります。制度は改正される可能性があるため、導入時点の一次情報を確認しましょう。

電子帳簿保存法の対象と保存方法を確認する

電子帳簿保存法では、電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引データ保存を区別します。メールやクラウドで請求書などを受領した場合は、電子取引に該当する可能性があります。

最新の資料とチェックシートは、国税庁の電子取引関係ページで確認できます。判断が難しい場合は税理士などへ相談してください。

契約・署名・社内規程の要件を業務ごとに確認する

契約書や法定文書は、対象ごとに要件を確認します。決裁規程や文書管理規程が紙と押印を前提としている場合、規程の見直しも必要です。

アクセス権限・ログ・バックアップ・端末管理を設計する

多要素認証、閲覧・編集権限、操作ログ、退職・異動時の権限変更、バックアップ、端末紛失時の停止方法を確認します。セキュリティはツールの機能だけでなく、日常の運用体制で決まります。

まとめ

ペーパーレス化の成功事例に共通するのは、紙をなくすこと自体を目的にしていない点です。紙が生む待ち時間、転記、検索、保管、出社制約などの問題を見つけ、業務の流れから見直しています。

成功へ近づくための要点は次のとおりです。

  • 紙が関係する業務とコストを棚卸しする
  • 解決したい業務課題とKPIを決める
  • 効果が大きく、難易度が低い業務から試す
  • 現場の意見を反映して運用ルールを整える
  • 紙を残す場面も含めて最適な方法を選ぶ
  • 効果を測定し、改善してから横展開する

まずは、紙を使う業務を一つ選び、「月間件数」「関係者」「紙に伴う作業」「困っていること」を書き出してみてください。最初の対象を具体化することが、無理のないペーパーレス化への第一歩です。